起業家がインプットする情報にも品質の優劣があります。
例えば、アンケートひとつを取ってみても、良い質問で問いかけられた回答の信頼性が向上するのに対して、質問者の意図が色濃く反映した「選択式」の質問などで得られる回答では、真のニーズにたどり着けないことは容易に理解できます。
起業家にとって最も避けたいのは、こうした質の低い情報を鵜呑みにすることによって、誰も必要としない製品・サービスを「創らされること」です。別の表現では「ありもしないニーズを信じ込まされること」だとも言えますが、この状態を引き起こすことほど辛いものはありません。
真実ではないニーズに費やされるお金と時間は、多くのベンチャーにとって命取りです。
つまり、起業を目指すのであれば、「良質なインプットを得るためのスキルセット」は不可欠なのです。
アンケートの事例からも分かるように、信頼性の高い情報を得るためには、まず、良い情報に「たどり着くスキル」が必要です。
今回はまず、信頼できる情報へのアプローチを解説していきます。
よく、書籍などでは「インタビュー術」のようなスキルが紹介されていますが、私の経験上、こうしたテクニックを教えてもらっても、実際に実践できるひとはほとんどいません。書籍「ビジネスモデル症候群」で紹介したように、インタビューする自分自身が強いバイアスにさらされているだけでなく、そもそも、適切なインタビュー相手にたどり着くこと、正しい質問をすることもままなりません。
その理由はとても単純。
実は、こうしたテクニック、特にインタビューは、一朝一夕に修得できるスキルではなく、何年も事業開発や市場調査などに携わるなかで培っていく「経験依存比重」のとても高いスキルだからです。事業開発の初心者、起業の初心者がテクニック本を読んでも、一夜漬けで修得できるものではありません。それを実践できるようになるには何年も要するのです。
良いインプットに出会うためには、確かに、インタビューなどによる「引き出すスキル」が欲しいのですが、その前に、修得すべきは「たどり着くスキル」です。起業家にとっての最大のリスクは「誰も必要としないニーズ」を信じ込んでしまうことですから、少なくともこの事態を引き起こさないよう、「情報の信頼性」がどのように形成されるのかを理解しておく必要があります。ここの見極めが出来るようになりさえすれば、少なくとも大きな失敗(完全な思い込み)からは逃れることが出来ますし、自分のアイディアの振り返りにも役立ちます。まずは情報の信頼性を様々な角度から検証していきます。
情報の信頼性は、複数の要素によって形成されていきます。
広義の意味での信頼性についてはより深い検証が必要なのだと思いますが、起業家にとっての「情報の信頼性」は、たった一点、
「真のニーズを示しているか」です。
この観点から情報の信頼性を考えていくと、以下の5つの要素を整理することで、情報の信頼性は確保できます。
1.情報元
2.取得場所
3.内容
4.表現方法
5.情報タイプ
1.情報元
「こんなニーズがある、ありそうだ」という情報が「誰から」発せられたものであるかによって、情報の信頼性が左右されそうだというのは容易に想像できると思います。勘違いして欲しくないのは、あくまで起業家にとっての情報の信頼性とは、情報の真偽を問うているのではありません。「本当に売上げにつながるニーズ」なのか「ありそうだけどお金にならないニーズ」なのかという違いです。この観点から整理すると、起業家にとって有益な情報とは、お金を支払ってくれる可能性が高い順に信頼度が増すと言えます。この観点からすれば、情報元に関する信頼性は以下のような順序で考えるのが妥当です。
【課題の当事者>課題研究の第一人者>本人の経験>課題の専門でない評論家>知人・友人】
2.取得場所
これは簡単ですね。信頼性の高い情報は常に「現場」にあります。これは詳細を語る必要なく、取得場所に関する信頼性は以下の順です。
【現場>机上】
3.内容
課題の当事者に出会うことが出来たら、絶対に聞き出さなければならない情報はただひとつ。彼らが「課題をどのように理解しているか」です。存在しないニーズを掴まされる代表格のアンケートで最も多い失敗は、性急に「どのような解決策が欲しいか」を問うてしまい、本当に困っていることがなんなのかを理解しようとしないことです。信頼できる内容とは、何が欲しいかではなく、何に、どのように困っているかの方なのです。
【問題・課題>解答・結論】
4.表現方法
課題の当事者から、実際に課題に対して困っている根本原因や対処方法を得るのはもちろん大切ですが、課題の当事者本人であったとしても、課題を正しく「言語化」できるとは限りません。むしろ、まだ一般化していない(掘り起こされていない)課題は、誰も言語化出来ていない状態だとも言えます。よって、情報の信頼性としては、「言語化」された情報よりも、非言語である「仕草」や「リアクション」といった「ノンバーバル」で表現された情報の方が、より信ぴょう性が高いと言えます。
【ノンバーバル>バーバル】
5.情報タイプ
最後は情報のタイプですが、ひとくちに「情報」といっても様々な種類が存在します。「データ」や「統計」と言った、取得されたままで誰の解釈もされていない情報から、「解説」の様に、すでに誰かの考えによって「加工」されたものまで存在します。例えば同じ「人口」というテーマと扱った資料がふたつあったとして、ひとつはただ単に国勢調査ごとの人口動態や人口移動と言った「データ」が記述された資料、そしてもうひとつは、これらのデータを元に誰かが「日本の人口減少について」という解釈を加えた情報です。当然ながら、信頼性・信ぴょう性という意味においては「一次情報」のほうが信頼性が高く、解釈という加工処理が加わるたびに、信ぴょう性は低下します。
【一次情報・ローデータ>加工済み情報(一次加工>二次加工>三次・・・)】
さて、つまりこれらを統合すると、
「課題の当事者」から
「現場」で得た
「ノンバーバル」な
「一次情報」として得ることができた
「問題・課題」のありかた
が、最も真実に近い情報だと言えます。
逆に、
「友人・知人」が語る
「バーバル」化された
「解答・結論」を
「加工済み情報」として
「机上」で得る
というのが、信頼性に最も欠ける情報の取得方法だということになります。
これってつまりは、例えば友人がSNSでお勧めしていた書籍を読んだことで「理解したつもり」になるということなのですが、こうした情報のインプットをすべて否定するわけではありません。こうした情報はあくまでより信頼性の高い情報への「呼び水」になればよいのです。
今回のまとめは以下の通り
1.インプットクオリティを上げることは起業家にとって必須
2.ただしインタビューやアンケートなどの、良い情報を「引き出すスキル」を修得するには長期に渡る経験が必要
3.まずは情報の信頼性・信ぴょう性がどのように優先付けられるかを知ることで、良い情報に「たどり着くスキル」が手に入る
4.これを手にすることによって、「存在しないニーズ」という起業家にとって悪夢から解放される確率が向上する
ということでした。
また次回も引き続き「インプット」のクオリティ向上について検証します。
引き続きお付き合い下さい。