技術者にとって、効果的なマーケット・リサーチは頭の痛い問題かもしれません。
リーンスタートアップでは、まず顧客の課題、製品の機能、流通チャネル、市場タイプなどの仮説を立てていきますが、こうした仮説を立てる際にマーケット・リサーチが効果的であることは間違いありません。
しかし、予算も少ない中でどのようにリサーチを行うかということは、さらに大きな課題です。
先週の金曜日、あるブログで、まさに今週アプリケーションをローンチさせようとしているアメリカのスタートアップが、技術者なりのマーケット・リサーチを行い、どのようにリーンスタートアップを実践していったかの詳細を紹介している記事を見つけました!
非常にライブ感の高い記事で、非常に価値のある内容なので、さっそくご紹介します。
原文の記事を投稿したスタートアップは、”Matchbook“という、ロケーション・ベースのiPhoneアプリケーションの開発を行っています。
現在”Matchbook”はランディングページでサインアップの募集だけを行っていますが、まもなくカナダで、そしてその後にアメリカでもローンチを迎えるようです。
出資者などの背景はまだ調査していませんが、製品の方向性を見る限り、とても有望なスタートアップであることは読み取れますので、ぜひ参考にしてみてください。
来週、私たちはMatchbookというアプリケーションをリリースします。ぜひサインアップしてください。私たちはリーンスタートアップを実践していて、このアプリケーションがリリースされるまでのプロセスを共有したいと思います。
私たちは「リアル・ライフ」を反映させたソフトウェアを構築したいと考えました。ソフトウェアのゴールはすでに習慣化されている行動を簡素化することであり、新たな習慣を生み出すものではありません。訪問したレストランを後で覚えておくために「matchbook」を使ってみれば、このアプリケーションが何をかなえるのかが分かると思います。matchbookは「プレイス」をブックマークする極めてシンプルなアプリケーションです。誰かがあなたにお勧めのバーやレストラン、ショップを紹介したら、それをブックマークすることができます。このアプリケーションはこうした「プレイス」を管理することができ、(今日は)どこへいこうか?という悩みを即座に解決します。このアプリケーションは「プレイス」のためのdeliciousやInstapaperだという評価を得ています。
Step1:問題の識別
私は、たまにIT技術の話しをする友人を訪ねてこう聞きました。「ロケーション・ベース・アプリって、なんか納得いかないんだよね。アメリカのメインストリーム(市場)はまだ”チェックイン”を楽しむほど成熟してないんじゃないかな?」そして、この質問はこう変化したのです。「ロケーション・ベースのどんな機能なら、普通のユーザ層でも受け入れられるかな?」
Step2:私たちはどのように答えを見つけたか
モバイル・アプリケーションに関する現地調査は、オフィスを離れてリアルな現場で行うべきです。step1の質問に応えるためには、IT業界ではなく、普通のひとたちからのフィードバックを探す必要がありました。
これを実現するため私たちは実際にバーに行き、何人もの人たちに、わたしたちはソフトウェアを開発中であることを説明していくつかの質問をしました。さらに、デートサイトを利用して女性をデートに誘い、マーケット・リサーチに必要な女性たちの関心を引くことができました。勘ぐらないでください!ディナーはごちそうしましたから!これらの行動はマーケット・リサーチには最適な場所になったのです。なぜなら、
- わたしたちがターゲットする顧客(20代から30代)の普通の人たちの意見を集めることができた。
- 友人たちと一緒にいるときには、彼女たちはどのようにリアル・ライフでの意思疎通を図っているかを、気軽に話してくれた。
- バーに行って飲んだり、女の子の電話番号をゲットしたりして、マーケット・リサーチに対するモチベーションが上がった!
そして、見出した答えは、
- 都会の女性の非常に多くは、プレイスをブックマークするために何らかの手段を使っている。これには、自分宛にeメールを送る、自分宛にSMSを送る、携帯のノート機能を使う、カレンダーにイベントとして追加する、エクセルやgoogle docなどに記録するなどが含まれる。
- この傾向はiPhoneオーナーの女性ほどパーセンテージが増す。
- こうした努力を行っているにも関わらず、情報がバラバラだったり管理されていない状態であるのは無意味であると認めている。
- レストラン、バー、ショップが、プレイスとしてブックマークする中心。
- こうした女性たちは(ブックマークした)ロケーションをブロードキャストする(ソーシャルに共有する)ことにためらいがある。共有やソーシャルといった考え方には興味を感じない。
step3:プロトタイピング
私たちはアプリの設計をOmnigraffleを使って開始しました。多くの時間は、自分たちが「最低限必要な機能を持った製品(Minimum viable product)だ」と思えるようになるまでは、機能を「取り除く」ことに使いました。そうして出来たプロトタイプをもって、またバーへ行き、テストしたのです。プロトタイプはInterfaceという素晴らしい製品を使って操作可能な状態にしたので、実際にユーザーテストが出来たのです。そうやって、価値あるフィードバックを得られる夜を過ごし、また設計を変更してはユーザーテストを繰り返したのです。こうしたプロセスは反復的に30回ぐらい実施しました。
この繰り返しは、
- ユーザが直感的に操作できるようになること
- 操作に違和感を感じないこと
- 使い方に対して疑問を感じないこと
- お世辞抜きで「ワオ!これ使ってみたい!」ということ
になるまで実施したのです。
step4:Pivot 1
開発を開始した当時、Matchbookはソーシャルアプリケーションになると思っていました。予定を計画したり、ヒントを共有したり、ブックマークした場所を共有したりすることの手助けになればと予想したのです。でもより多くの女性たちと話しをするうちに、彼女たちは少し「ソーシャル」に疲れていることや、ロケーションを共有することに対して多少不安があるということに気付いたのです。数多くの女性たちが「ソーシャル・サークル・プロブレム」に完全につながっていたのは驚きでした。結果的に、私たちのアプリ設計はソーシャルから方向転換して、パーソナル・アプリケーションにしたのです。恐らく将来的にはソーシャル機能を追加するかも知れませんが、この分野でソーシャル機能が求められることを再確認するまではしないつもりです。
step5:Minimum Viable Product(MVP):必要最低限の機能の製品
MVPとして見出したのは、プレイスをブックマークするためのアプリケーションです。
ユーザーは次のようなことができます。
- テキストを入力するか、“I’m Walking By It”というボタンをクリックすると、ブックマークしたいと思う場所を検索することができます。
- ユーザはブックマークしたロケーションに、メモやタグを追加できます。
- ブックマークは自動的に地域でまとめられ、地図上で管理されます。
- タグ検索が可能で、検索にマッチする場所だけではなく、他のユーザからブックマークが多い場所も検索できます。
- ソーシャル機能はありません。
step6:ソフトウェア開発
MVPが決定したら、開発フェーズに移行しました。開発自体は100%アウトソースし、私たちがソースコードを書くのではなく、エンジニアたちによって反復的な開発を行いました。開発をアウトソースすることには疑問を感じる人もいるかと思いますが、私たちは最終的には素晴らしいチームと出会うことができました。私たちはすべての開発費用を10000ドルに抑えることが出来たのです。
step7:ローンチ
iPhoneアプリを開発する主な問題点は、アップルはベータ版のテストユーザを100スロットしか許可しないというものです。この数字では、仮説をテストするには足りません。データを実用的なものにするために、私たちはすべてのユーザにダウンロードしてもらうようお願いしなければなりませんでした。
この問題を解決するために行ったブレーンストーミングの結果、替りとなる戦略を見つけました。アプリケーションはカナダのapp storeで最初にリリースすることにしたのです。プライベート・ベータ版のテストをアメリカで行えないのなら、カナダでのリリースをベータ版にすればいいのです。アメリカ在住のユーザにはこのアプリケーションはダウンロードできないので、カナダ向けのローカライズも可能です。カナダへの展開は、フィードバックを得ることと、測定指標をの収集にあてるつもりです。
フィードバックをベースに継続的な開発を続け、より洗練された製品をアメリカのapp storeにローンチさせるつもりです。ダウンロード数を増加させるアイディアは、製品のPRとiTunesの「ニューリリース・リスト」の組み合わせを考えています。願うことなら、ダウンロード数増加に集中する戦略が、このカテゴリのトップ・ダウンロード・リストに乗るまで伸びてくれれば、と願っています。
次に記述する仮説は、リーンスタートアップのプロセスの中で見出したものです。これらは、来週からカナダで検証を行う予定です。
- ロケーションのオススメに対する「ニーズ」は存在する。
- 都会に住む多くの女性は、ロケーションのオススメを同じ手段で記録している。
- どこへ行くか?という意思決定時には、過去のオススメ情報を考慮するという「ニーズ」は存在する。
- どこへ行くか?という意思決定時に、オススメを得るための最近の情報は役に立たない。
- この問題を解決したいという願いは、ユーザの行動パターンをより良い解決策へと変えるぐらいニーズがある。
step8:顧客開発プロセス
私たちは、顧客開発プロセスをstep3のプロトタイピングと同時に開始しました。そして、ロケーション・ペースのアプリを開発するスタートアップには、「今日のお買い得(daily deal)」が最も売上げを得やすいチャレンジだと思っています。しかし、それを実行するだけのセールス部隊を雇う資金はなかったので、私たちは顧客開発プロセスを開始して、共同購入サイトに掲載しているビジネス・オーナーたちと会話を始めました。そこで見つけたことは次のようなことです。
- 「どこへ行くか?」という課題を持ったユーザにアクセスする、というアイディアには好意的
- 自分でロケーションをブックマークするようなユーザに「今日のお買い得」を送信したいと思っている
- 共同購入のプラットフォームでは、顧客集客力が強いのであれば納得出来るハイコストを、ただ「今日のお買い得」を送信するだけなら、割安感のある定額料金を望んでいる。
共同購入市場をより理解するために、私たちはニューヨークをベースとする共同購入サイトへの協力を提案しました。これによって、我々の顧客が直面している課題に対する深いインサイトや、「今日のお買い得」を最適化するための素晴らしい戦略を学ぶことが出来たのです。
今日はここまでです。アプリケーションは今週カナダでリリースされます。そしてアメリカでもすぐに。
読んでくれてありがとう!
-Matchbook
いかがでしょうか?
これまでにもリーンスタートアップの実践をケーススタディでご紹介してきましたが、マーケット・リサーチ、仮説の立て方、仮説の検証、開発手法、プロモーション戦略などをここまで詳細に紹介してくれたスタートアップは初めてではないでしょうか。
しかも本当に近々ローンチするというライブ感が素晴らしい内容です。
さて、少しだけ解説的なことを。。
このケーススタディから読み取れるリーンスタートアップの効果として最も重要なのは、スタートアップがITベースであるにも関わらず、製品の方向性を技術に依存しなかったことと、ユーザのニーズを決め付けなかったことにあるのではないでしょうか?
ファウンダーのJason Schwartzは最初からリーンスタートアッププロセスを採用することを前提に、少ない資金でもマーケット・リサーチを実行しています。
また、こうしたマーケット・リサーチをどう行うか?という課題に、お金に依存することなく自ら現地調査を行い、30回もイテレーションを回すというのはなかなか出来ることではない気がします。
良い仮説を立てることができるスタートアップは、その後の検証手段、そしてプロモーション戦略と、一貫した戦略が立てられるのではないでしょうか?
やはり、成功するスタートアップとは、最初のアイディアの素晴らしさではなく、いかに製品の機能とユーザのニーズをマッチさせることが出来るかなのですね。
※Matchbookはまだ成功していませんが、恐らくカナダでのベータが思うように進まなかったとしても、きっとまたPivotしていくのでしょう。これからが楽しみです。
最後にLean Startup Meetupのお知らせを!
先週更新した記事にて、Lean Startup Meetupの開催をお知らせしました。
様々な方から開催に対するご返信やご参加表明を頂き、心より感謝しております。
事後報告ではありますが、先週まで渋谷区創業塾という渋谷区が主催するセミナーに参加してまして、その中でも数々の貴重な出会いがありました。
「動き出すこと」の大切さを日々とっても感じており、Meetupに向けての準備にも気合が入ります!
当日、皆様にお目にかかれることを心より楽しみにしております!
また、ご参加の表明をFacebookのイベントとご紹介しておりましたが、以下のリンクからもご連絡頂ければ幸いです。
http://leanstartupjapan.org/?page_id=44
近日中に開催場所の連絡をさせて頂きますので、引き続き、よろしくお願い申し上げます。
和波俊久