2011年4月10日。
半袖でも心地よいほどの絶好のお花見日和のさなか、初めてのLean Startup Japan Meetupを開催しました。
震災を受けて急遽開催を決定したにも関わらず、お二人の起業家の方にご参加頂きました。
少人数での開催でしたので、非常に奥深くまで活発な情報交換ができ、初めての開催としてはとても充実した内容であったと思います。
ご参加いただきましたみなさまに、改めて感謝申し上げます。
今回、Meetupを開催しようと思ったそもそもの動機は東日本大震災だった訳ですが、被災地の復興にアントレプレナーの力が大いに発揮された、非常に良い事例を見つけたのでご紹介したいと思います。
「ハリケーン・カトリーナ」を覚えいていますでしょうか?
2005年8月に、アメリカ南東部を襲った巨大ハリケーンです。
この際に最も被害を受けた街ニューオーリンズが、現在は起業家の街として復興していることをご存知でしたでしょうか?
地元のアントレプレナーと全米の学生が毎年定期的にアントレプレナー支援イベントを開催し、約1800人の犠牲者、100万人以上がホームレスと化したニューオーリンズを、アントレプレナーを支援する街、そして実際に全米平均をはるかに上回る起業率を誇る街へと変貌させたのです。
これから私たちができることのひとつのヒントになるのではないか?という思いと共に、4/8にInc.社のDonna Fennによって投稿された”Why New Orleans Is the Coolest Startup City In America(なぜニューオーリンズはアメリカで最もクールなスタートアップの街になったか)”という記事の抄訳をご紹介します。
原文はこちら。
ニューオーリンズのすべての人々がハリケーン・カトリーナにまつわるストーリーがあり、そのほとんどは喪失、フラストレーション、悲しみにまつわるものです。嵐から5年がたった今でもこれらはいまだに絶えず、そしてもちろん、1800人以上の方がなくなり、100万人以上がホームレスと化した廃墟の面影を目にすることが出来るのです。しかしカトリーナはニューオーリンズにもうひとつのストーリーを残しました。ニューオーリンズのアントレプレナーにハッピーエンディングをもたらしたのです。2007年から2009年までに、ニューオーリンズ中心地の成人10万人のうち、450人が事業を開始したのです。この比率はアメリカ国内平均320人を優に超えると共に、(ハリケーンが襲う前の)6年前の2倍の数となったのです。
「カトリーナは2つのことをもたらしました」とIdea VillageのCEO、Tim Willamsonは語ります。(Idea Villageは先日のNew Orleans Entrepreneurship Week:NOEWをスポンサーしています)「すべての人々がアントレプレナーになりました。なぜなら全員がそれぞれの立て直しに取り組んだことで、私たちは『スタートアップ・シティ』になったのです」そして2つめに「ネットワークは世界規模に広がったのです」と彼は言います。Williamsonと仲間4人のアントレプレナー達は非営利団体として2000年にIdea Villageを創業し、地元のアントレプレナーの把握とサポートに務めたのです。しかし事業が進み始めたのは、街の苦境によって多くの人々が再建支援を名乗り出ることになったカトリーナの発生以降でした。こうした人の中には、春休みをビーチで過ごすかわりに、ニューオーリンズのアントレプレナーを支援することを選んだトップビジネススクールのMBAの学生が含まれていました。こうした学生たちのひとりにスタンフォード大学のDaryn Dodsonがおり、翌年には、TPG(シリコンバレーのプライベート・エクイティファンド)の共同創業者Jim Coulterからサポートを受けていた25名ものStanfordの学生が加わりました。「カトリーナが発生しなければ、彼らがここへくることはなかっただろう」とWilliamsonは振り返ります。彼とパートナーは、ニューオーリンズが、地域に根づいた起業家の卵を育成するためにワールドクラスのリソースを惹きつけるには最適なタイミングであることを感じ取っていました。
それから3年、Idea Villageは、100万ドルを超える現金とサービスを地元経済に投入するための本格的なイベント(NOEW)を開催するために、数名のMBA学生を地元の起業家に紹介することに務めました。地元のビジネスリーダーのみならず、GoogleやSalesforce.com、Ciscoといった企業の経営者たちの指導のもと、何百人ものニューオーリンズのスモールビジネスオーナーに対するワークショップが提供されたのです。Mitch Landrieu市長のオフィスも、テュレーン大学やGoldman Sachs、そして地元の経済支援グループとの協働に取り組んでいるのです。James Carville(著名な政治コンサルタント)やMary Matalin(政治コンサルタント。James Carvilleの伴侶)ですら、行動を開始しました。彼らはNOEW参加者レセプションを、戦前(南北戦争)から存在するアップタウンの高級マンションでホストしたのです。資金面では、Greater New Orleans Foundationが起業家による「上下水道管理ソリューション」に対するイノベーション・コンペに対して5万ドルを出資して盛り上げました。優勝者は、ルイジアナのサトウキビとザリガニを使った汚染水の浄化装置を開発したNanoFexでした。TPGのCoulterは現在、NOEW最終週のイベント”IDEAPitch”をスポンサーしています。IDEAPitchとは、5人のアントレプレナーと、TPG, Bain Venture Capital, Redpoint, Prism, IBM Ventures, American Fundsの出資者による、起業家版アメリカン・アイドル(オーディション番組)です。
昨年のIDEAPitchの優勝者であるBig Easy Blendsは、”Capri Sun(ウィダーインゼリーのような容器で売っているジュース)”のようなパッケージの”Mar-GO-Rita”というフローズンカクテルを開発しました。共同創業者のCraig Cordesは、サンフランシスコでの資金調達は散々だったと言います。しかしこの優勝によって数えきれないぐらいの取材を受け、売上げは350%増加、販路も5州だけだったのが12州に広がったそうです。今月末には地元のエンジェルからの投資を受け、販路を30州に拡大する予定だそうです。今年の優勝者NOvate Medical Technologiesの若干24才の共同創業者William Kethmanが来月サンフランシスコで資金調達を実施すれば、きっと多くの出資を得ることでしょう。蝶ネクタイでキメたテュレーン大学の学生である彼は、Safe Snipという使い捨ての「へその緒」カッター(切断、密封、殺菌ができる)で観客と審査員を驚かせました。Kethmanは、(へその緒を切るのに)紐とカミソリが使われている途上国での用途のために設計をしたのです(カミソリが潜在的な病気を引き起こす原因となっている)。「製品の強力なインパクトとシンプルさが、製品のポテンシャルを予感させる」とCoulterは語っています。
私にとって、NOEWのハイライトはMBAピッチ・コンペティションです。このコンペはMBAチームが地元企業とペアを組んでブレーンストーミングやプラニング、再発明ができるよう、学生が春休みになる3月にスケジュールされます。今年のチームはカリフォルニア大学バークレー校、シカゴ大学ブースビジネススクール、コーネル大学、ノースウェスタン・ケロッグ、ヨロラ大学、テュレーン大学、そしてスタンフォード大学からやってきます。もしこうした学生たちが8時間働いた後にバーボンストリート(ニューオーリンズの繁華街)へ向かうとしたら大間違い。「ほとんど寝る時間はなかったよ・・・」と、ケロッグの学生は私に教えてくれました。彼はコンペが終了したら、ぜひフレンチクォーター(ニューオーリンズの歴史地区)のナイトライフを味わってみたいと願っていました。コンペにはTPG Capital, Goldman Sachs, Mckinsey, Tulane University, Whitney Bankの経営者が審査員として参加します。審査員たちは彼らのために普段の仕事を切り上げて参加しています。ロヨラ大学のチームはNOLA Breweryに対する製造工程改善プランと再販業者に対するインセンティブ計画を発表します。Bideoと共にチームを組むテュレーン大学チームは、大学のキャンパスをターゲットした、写真やビデオのオンライン・オークションサイトのマーケティングキャンペーン開発を計画しています。コーネル大学のチームは、Spa Workshopの製造拠点と潜在的な販売業者を見つけました。(Spa Workshopは、プログラム可能なマルチヘッドシャワーを製造しています)しかし、優勝者への豪華な景品は、Rare Cutsとチームを組んだノースウェスタン大学に送られることになりました。(優勝者への景品は、トロフィー、Carville/Matalinでのレセプションへのリムジンによる送迎、そして彼らのキャンパスへ送られる「伊勢エビのボイル」です)Rare Cutsは、ニューオーリンズのアップタウンの店舗で非常に高品質な精肉を販売しています。
Rare CutsのオーナーHenry Albertは、「ビジネスを立ち上げた昨年の売上げは58万ドルでした。しかし、もしケロッグの学生たちと協業できるとしたら、売上げは120万ドルにできると予想しています。なぜなら、いままで私たちは、誰もが自分たちの潜在客になり得ると思って手当たり次第にマーケティングをしていたのですが、彼らは私たちのターゲット顧客が「料理人」であることを見つけるのをサポートしてくれたのです。」と語っています。Albertはウェブサイトを作り直し、Eコマースによる全国展開を開始しました。さらに、ソーシャルメディアの取り組みも強化し、店舗のブランドを再構築したのです。「2店舗目の開業に向けて資金調達するつもりさ」とAlbertは言います。「しかしまずはウェブサイトでの売上げを優先するよ。ノースウェスタンの学生たちはサイト・アーキテクチャのフレームワークを構築してくれて、それは実に素晴らしいんだ!」Albertは昨年の優勝者(Naked Pizza)は大成功を引き合いにして、自分たちも同じ体験を味わえることを期待しています。彼は現在、新たな計画の手助けを求め、ケロッグのMBAに夏休みにインターンシップとしてニューオーリンズに来てくれるよう交渉中です。
「こうしたすべての取り組みは草の根運動なんだ」とWilliamsonは言います。「スタンフォードから参加したMBAの学生たちはSalesforce.comやGoogleへ就職するんだ。そしてこうした企業も参加してくれるようになったんだ」今年のIDEAPitchのファイナリストのひとり、P2B融資を行うRebirth Financialは、テュレーン大学のMBA卒業生で昨年のコンペでJack and Jakesとの協業で優勝した、Xavier CaboとChonchol Guptaによって創業されました。(Jack and Jakesは地元のオーガニックマーケット)今年は逆に、彼ら自身の事業が、シカゴ大学ブースビジネススクールのMBAたちによって大いなる助けを得ることになりました。「我々のプラットフォームを使用した融資総額を、26000ドルから100万ドルにしてくれたんだ」とGuptaは言います。「そして彼らは今後9ヶ月のマーケティング戦略も手助けしてくれたんだ」とCaboも付け加えました。「それは実に素晴らしいものさ」世代を超えた人から人へのメンタープログラムは、アントレプレナー・エコシステムの構築と維持に貢献し、それは地元の才能だけでなく、グローバルな人材に対して魅力有るものになるのです。「ニューオーリンズとサンフランシスコは、音楽、フード、アーキテクチャ、そしてアントレプレナーに対して継続的に活気あるアイディアを創造し続けているんだ」とCoulterは言います。ニューオーリンズはまだシリコンバレーには及ばないが、いつかはそうなるだろう。Mitch Landrieu市長はこの言葉を好んで使います。「(この街は)自分たちで立ち上がんだよ!」 ホントだね!
取り組み自体は地元の産業と全米の学生がタッグを組んだビジネスコンテストですが、素晴らしいのは、そこに大企業や自治体が積極的に関与している点であり、そして、全米が提供したのは復興を支援するための「義援金」ではなく「英知」だということでしょうか。
自ら立ち上がろうとしたときに、最適なリソースで支援すると成功確率が上がるという典型的な事例なのかもしれません。
さらに、こうした取り組みは現在も継続されていて、一時的なムーブメントに留まっていないこともとても素晴らしいことです。
こうした支援を東北地方にも展開できないか、これから私なりに探っていきたいと思います。もしこのような取り組みに関心がある方をご存知でしたら、ぜひご紹介頂ければ幸いです。このブログを読んで主旨にご賛同頂ける方がいらっしゃいましたらぜひご一報ください。
数年後、「あの震災があったからこそ、東北は日本のアントレプレナーの象徴になったんだ!」と言えるような日が来ることを祈って。