Startup Lessons Learned Conference関連記事第3弾はアプリケーション・プラットフォーム・サービスを提供している”Heroku“です。
ご存じの方も多いかと思いますが、Herokuは2011年1月にSalesforce.comに2億1200万ドル(約172億円!!)で買収されました。
Y Combinator出身のスタートアップとしては、Dropboxと共に登壇です。
もちろん内容はHerokuを利用方法ではありませんが、実際の活用方法はこちらに詳しく紹介されてましたのでよろしければ合わせてご覧ください。
PaaSサービスのパイオニア的存在のHeroku共同創業者”Adam Wiggins”が今回紹介するのは、”The Epic Pivot(大規模な事業方向転換)”と題されたスライドで、前回の記事に引き続き、スタートアップのPivot事例です。
ですが、今回の事例がこれまでのものと少し異なるのは、いままで紹介した事例におけるPivotは、スタートアップが成功する以前のものを中心にお伝えしてきました。しかし、今回紹介するHerokuは、大規模なPivotを行う前に、すでに1.5万人ほどのユーザを獲得し、なんと300万ドルの資金調達にも成功しています。
普通のスタートアップであれば、この時点ですでに「成功」と呼ばれる状態ですが、彼らは「この状態」からさらにPivotを行い、その後、冒頭でもお伝えしたとおり、salesforce.comに非常に魅力的な評価額で買収されます。
ではご紹介していきます。
Herokuは2007年7月に創業。
最初のプロトタイプはFilemaker ProのWeb版サイトで、開発期間6週間でリリースしています。
この最初のプロトタイプで数千人のアクティブ・ユーザを獲得し、順調なスタートを切ります。
このプロトタイプの特徴は、本格的なプログラミングが出来るように「Webエディタ機能」を搭載していました。
また、Ruby/Ruby or Railsによる開発が可能であったため、この言語のコミュニティ(アーリーアダプター)から早期の支持を得たのです。
2008年冬のY Combinatorに参加し、この年の2月には300万ドルの資金調達に成功します。
つまり、創業からわずか8ヶ月でサービスの開発、ユーザ獲得、資金調達を実現してしまったのです。
その時の心境をAdam Wigginsは「世界のトップにいるみたいに感じた」と言っていますが、ここまで順調に進めばそう感じるのも理解できます。
問題はここからです。
個人的な成功は感じているものの、まだプロダクト/マーケット・フィット(製品と市場ニーズの整合性)がまだ取れていないことに気づきます。
サービスはクールでスタイリッシュだし、トラクションもあり、熱心なユーザもいましたが、それでもまだ整合性は取れていないと自覚するのです。
周囲からの賞賛も、この思いを打ち消すには十分ではありませんでした。
そこで彼らはこの違和感からの脱却のため、問題の解決に乗り出します。
最初に定義した課題は、自分たちは間違ったユーザセグメントをターゲットしているのではないか?ということでした。
Webエディタを搭載したHerokuサービスの利用者の多くは、本格的な開発者ではありませんでした。
優秀な技術者の多くは、ウェブ上のサービスなどではなく、自分の気に入ったローカル開発環境を好むのです。
こうした学習からいくつかのAPIやコマンドラインツール機能を追加し、新たなユーザの獲得にも成功します。
しかし、本質的な問題(プロダクト/マーケット・フィット)はいまだに解決しないままだったのです。
彼らが着目したのはアプリケーションの「開発」と「制作」の違いです。
そして、両者の相違において、自分たちがどこに集中すべきなのかを考え始めます。
Webエディタ機能の搭載はアプリケーション開発者をターゲットしたからなのですが、多くの開発者はローカル環境を好んでいます。
そこで彼らはアプリケーションの開発ツールではなく「アプリケーションの制作ツール」に再フォーカスすることにしたのです。
そこからの6ヶ月間、Herokuはこれまでのサービスと並行して、このアプリケーション制作ツールの開発に着手しますがうまく行きません。
彼らは「さらなる集中」の必要性に気づきます。
そこでの選択は「Webエディタ機能の放棄」でした。
Webエディタ機能は、Herokuが最初のトラクションを得るきっかけともなった機能であり、まさにMVPの中核です。
しかし、初期の成功は彼らを「間違えた方向性にロック」することとなり、プロダクト/マーケット・フィットもしていない状態にも関わらず、その方向性で努力し続けることを強いられるようになったのです。
この間違いに気づいた彼らは、ついにWebエディタ機能の放棄というPivotを選択したのです。
この時の心境をAdam Wigginsは「心が痛むPivotだった」と表現しています。
自分たちの初期の成功の理由でもあり、もちろん自らも愛していた機能を放棄することは、ファウンダーとしては実に心が痛む選択です。
※オライリーのRailsの最初のページにHerokuのWebエディタが載っているのを見たときに「この機能を捨てよう」と決意したそうです!
こちらのリンクのLOOK INSIDEでChapter1の3ページに載ってます!
Webエディタを切り捨てた彼らは新たな方向性で再スタートします。
2008年9月に、3ヶ月間でほぼ新規な状態からの製品開発という計画を立てます。
そして2009年1月、新たなプラットフォーム「インスタント・ルビー・プラットフォーム」としてのサービスをローンチさせました。
ローンチ後、彼らの期待通りユーザ数も売上げも増加し、選択した方向性が間違いではなかったとの確信を得ることになります。
古いプラットフォームは”Heroku Garden”という新たなブランドとしてサービスは継続しました。
2つのプラットフォームは連携してサービス提供したのです。
これによって、「大規模なPivot」ではありますが、「段階的なPivot」でもあったのです。
このような経緯の中で彼らが学んだことは以下の通りです。
- 初期の成功とは、人々の関心を引いただけのこと
- その関心から市場のニーズ理解をすることと、スケールするビジネスモデルを見出さなければいけないということ
- 初期の成功は、自分たちの会社を潰しかけていたということ
- スタートアップが「まだ失敗していない」という状態でPivotするのはとても困難だということ
- 正しきユーザ獲得のために(つまりプロダクト/マーケット・フィットすること)何をどうやってPivotすればいいのかを見出すこともとても困難だということ
- そのためには「ウルトラ・ナロー・フォーカス」すること
- 必要であれば「愛するもの」を切り捨てること
このような大胆なPivotを経て、今年の1月にHerokuはsalesforce.comの買収を迎えたのです。
今回のケースはいかがでしたでしょうか?
1度、課題とソリューションの整合がとれたスタートアップでも、次の課題はスケーラブルなビジネスモデルの構築です。
初期の段階である程度のユーザが獲得できたとしても、拡張性の無いユーザ・セグメントを対象としたビジネスモデルではキャズムを超えることはできません。
このように、「失敗していない状態」からのPivotはファウンダーたちを大いに悩ませるのでしょうし、特に主要な機能を切り捨てることは断腸の思いかもしれません。
しかし、Herokuのビジョンは「Webアプリケーションのデプロイにニューモデルを!」というものであり、Webエディタの有無に関わらず、彼らのビジョンはPivot後も継続して継承されています。
やはりPivotを行う際には、ファウンダーのビジョンに根ざしながらも大胆に行うことで希望が見出されるのかもしれません。
あ、余談中の余談ですが、”Heroku”という名前の由来は、”Hero”と”Haiku”の造語だそうです。。
by Hacker News
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