リーン・コンサルティングのご依頼を様々な企業様より頂戴するのですが、実は最も多い課題は、そもそも自分たちの新規事業開発プロセスのいったい何処が悪いのかが分からない!ということです。
「リーンスタートアップへの取組みで、何を改善しましょうか?」と問いかけても、そもそも原因分析も出来ていないので明確な回答が返ってくることはなく、結局、事業案の仮説検証を回すことでなんとか改善できないかと試みます。
またこうした原因分析が出来ていない場合に良くある間違いは、とにかく良い事業案の作成を目指すことだけに集中してしまうことです。エリック・リースの「リーンスタートアップ」の第三部「スピードアップ」の第9章では、そもそもの仕事のやり方を「バッチサイズ」と表現し、トヨタ生産方式を参考にした業務プロセスを導入すべきだと触れているのですが、原因分析が正しく出来ていないと、このような重要な部分の改善に取り組むことなく、ただ事業案をよりクリエイティブに!イノベーティブに!になってしまうのです。
私は、大企業における新規事業開発が上手くいかない理由を大きく5つのレイヤーに分けています。それぞれのレイヤーに多数の原因が存在していますが、レイヤーによって原因を解決すべき立場が変わります。
最も上位のレイヤーでは、企業に事業インキュベーションの文化がそもそも存在していないこと。
全部門、全社員が既存事業を守るためだけに業務設計されているため、ある日いきなり「新規事業やるぞっ」と言われてもそもそも事業開発に適した人材自体が不在でどうにもならない、実はこれが一番多いです。ここは経営者でなければ解決できません。
次のレイヤーは中期経営計画または年次計画にて投資ポートフォリオが設計されてないというパターン。
闇雲に新規事業を立ち上げるといわれても、どのような投資回収計画なのか、または既存事業とどのような位置づけになるのかが示されていないケースがほどんどです。年初の社長挨拶でいきなり「今年はイノベーション!」と語られ、社員が「たしか去年も同じことを・・・」と思ってる組織によくあるパターンで、ここももちろん経営者の課題です。
次のレイヤーがそれぞれの事業計画の不備です。ただ単に事業案を考えているだけで、例えば戦略的な発想が全くないなど、自分たちが良いと思えるものを作って市場に投入しては、単純な営業・マーケティング勝負を繰り返すというパターン。運良く多少のヒットになったとしても、すぐに競合に追従されてマーケットはコモディティ化し、あっという間に価格やCPAの競争に陥るなど。ヒットに至らなかった結果としてなぜそのサービスに勝算を見いだしたのかを振り返っても、誰も答えられる人がいません。事業開発マネージャクラスで頻発します。
さらに下のレイヤーでは、組織構成や運営の問題があります。完全なる新規事業開発なのに、部門横断チームが組まれなかったり、既存事業との兼業であるなど、これから最も困難な闘いに挑むとは思えない体制で新規事業開発が行われます。もはや大企業でもライバルは24時間寝ることがないベンチャーを相手にしなければいけない時代に、会議室の予約を理由に、2週間以上イテレーションが放置されるなどが頻繁に起こります。ここの問題は新規事業担当チーム自体の意識に大きく依存しますが、メンバー構成などについてはより上位層でしか解決できません。
そして最後のレイヤーが、新規事業開発の業務プロセスそのものの問題です。複雑に入り組んだ事業承認プロセスに、仮説検証をまったく行わない(行っているつもり)事業設計プロセス、MVPにまで要求される高い品質ターゲットなど、何か新しいものを生み出した経験がまったくなく、常に「仕事を漏れなく行う」ことだけを前提にした工程で、ここも新規事業開発チーム単独で解決できる問題と、より上位層を巻き込む必要がある課題に分かれます。
さて、みなさんの組織はどれぐらい当てはまりましたか?恐らくすべてのレイヤーにおいて何らかの問題があったかと思います。しかし、多くの方が取り組むのは3つめの事業計画のレイヤーのみで、しかも戦略策定を改善するのではなく、単に事業案のブラッシュアップに専念するため、全体的にみるとほとんど何も改善されていないという結果になるのです。
本当の「リーン化」とはこうした事とはかけ離れて、上記のような課題すべてを「リーン化」して解決していきます。2012年にYahoo!さんが体制を一新した際に取り組んだ「爆速」とは、まさしく上でご紹介したような「課題群」に対して、それぞれ業務改善を行ったことでした。これこそが大企業における「リーンスタートアップ」であり、事業案の仮説検証はそのごく一部に過ぎないのです。
ということで、上記の内容をもう少し詳細にご紹介したく、久しぶりに大企業にお勤めの新規事業開発担当者向けミートアップをやります!
経営に近い立場の方から、実際の開発プロセス担当者まで、大きな組織に所属しておられる方には有意義な内容になるかと思いますので、ぜひみなさんご参加ください!
Lean Startup for Enterprise Meetup
◆開催概要
タイトル:Lean Startup for Enterprise Meetup 「実践を通じて発見した、大企業における成功するリーンスタートアップとは」
日時:2015年6月17日(水)19:30-21:30
会場:株式会社VOYAGE GROUP 8F セミナールーム「パンゲア」
参加料:無料
募集人数:50名→80名(増席しました!)