Webサービスに限らず、コンテンツの充実度合いがサービスの充実に強く影響するサービスは数多く存在します。

CGMやマッチングサイト、ソーシャル系など、それぞれコンテンツの要素は異なりますが、マス・マーケットに攻め込むまでには十分なデータやユーザ数が必要です。

 

以前、こうしたサービスにはリーンスタートアップの適用は難しいとの記事がPenn Olsonに掲載された際に、「一番最初に利用してくれたユーザにもUXを提供するためには、たとえソーシャル系サービスであってもリーンスタートアップの考え方は必要」との説明記事を紹介しました。(詳細はこちら

 

「誰が」「なぜ」そのサービスを利用し続けるかを見極めながら仮説検証を行うことは、こうしたサービスの設計にはとても効果があるのです。

 

さらに、ユーザ数、コンテンツ数の充実がサービスの充実に直結するサービスの育て方としては、「小さく始めて素早く学び、初期のユーザにUXを提供できてから拡大戦略を実行に移す」というのが基本的に最も“Lean”な戦略です。

 

サービスの種別によって多少異なるのですが、最初はとにかく小さく始めることです。

 

例えば小さく始めるためのセグメントの絞り込み方としては、以下のようなパターンが考えられます。

  1. ターゲットユーザのセグメントを切れるようであれば、特定のセグメントを集中的に攻める
  2. 地域で絞込みが可能であれば、常にUXが提供できるターゲット地域に集中する
  3. 取り扱うアイテムの絞り込みが可能であれば、特定のアイテムから徐々に拡大していく

などがこうした絞り込み戦略の基本パターンです。

 

それぞれの成功事例としては、

  1. ハーバードから始め、全世界へ広めたFacebook
  2. シカゴの入居ビルのピザ屋から始め、全世界へディールを広めたGroupon
  3. 取り扱いアイテムを書籍から始め、その他のアイテムへ拡大中のAmazon

など、事例には事欠きません。

 

多くの場合、こうしたサービスの成功要因は、サービスそのもののアイディアが良かったということよりも、最初のユーザ獲得からマスマーケットへリーチするまでの「拡大・成長戦略」が優れていたという要因のほうがはるかに大きいのです。

 

数多くのリーンスタートアップ事例を追っていくと、拡大・成長戦略を立てる上ではいくつかのポイントが見えてきましたので、今回はこの成長戦略立案時のポイントをご紹介したいと思います。

 

◆成長戦略立案時の検討ステップ

  1. とにかくUXが成立しやすい「最も小さいセグメント」を見つける
  2. 小さいセグメントにサービス提供を開始したら、ひたすらUXの向上ポイントを探る
  3. マッチング確率など(UX)が上がる条件をひたすら探る、学ぶ
  4. もし3を見いだせなかったら、初期ユーザを失う覚悟で”Pivot”する
  5. ユーザからの良いフィードバックがパターン化してきたら、次のステップへ進む
  6. 最初の成功パターンをそのまま応用できる次のセグメントを探し出して適用する。
  7. 次のセグメントでも成功パターンが活きているかを見極める。ダメなら別なセグメントを検討する
  8. 複数のセグメントへの適用が確認でき、十分なデータ量とユーザ数を確保できたら、いよいよマスマーケットへの展開を検討する

 

今回調査した事例を見るかぎり、これをできる限り早いスピードで実施したスタートアップが、マスマーケットへの挑戦権を得ていると思います。

 

おまけ:「彼らは何を学んでいたのか?」

多くのスタートアップが、サービス開始初期の重要なメトリクスとして「レジストレーション(会員登録数)」よりも「リテンション(再利用率)」を重要視したというケースが多いです。UXが生まれているかどうか?の指標を、拡大しているか?の指標よりも重視したということが伺えます。さらに、いわゆる「アクティブ・ユーザ」の定義を見出すことにも、多くのスタートアップが注目しています。企業がプロパガンダ的に発表するアクティブユーザ数ではなく、自分たちのサービスが本当にユーザに愛されているか?を判断する基準値として、どのような行動が見られればいいかを見出そうとしています。

 

 

さて、今日はこうした絞り込みを実施した1つのケーススタディとして、”Food on the Table“の事例を紹介します。

Food on the Table“は、最寄りのスーパーの特売情報×料理の好み×選択したレシピから、今日買うべき特売ショッピングリストを自動作成してくれるという、誰かが思いつきそうな(笑)サービスを提供するスタートアップです。

 

 

 

 

2010年に開催された”Startup Lessons Learned Conferece“でケーススタディを初めて紹介したタイミングは、サービス・ローンチから8ヶ月でした。

今日紹介するのはそれから1年後の同カンファレンスで紹介された、10ユーザから10万ユーザ獲得に至るまでのケーススタディです。

元ビデオはこちらです(2011年)

2010年はこちら

アントレプレナーの教科書」を読んだ方であれば、世紀の大失敗をした”Webvan“の事例が頭によぎるテーマですが、注目いただきたいのは今日のテーマ「最初のセグメントの切り方」を、”Food on the Table“がどのように行ったかです。当初から全米展開を視野に入れていたファウンダーのManuel Rossoは、「アントレプレナーの教科書」に出会う前はいかにして全米のスーパーマーケットデータ、豊富なレシピを揃えるかが成功の鍵だと考えていたそうです。

 

しかし、最初のバージョンをローンチする直前にリーンスタートアップの存在を知ったことで、当初の戦略を大きく転換することになります。今回のケーススタディでは、ショップ情報、取り扱いアイテム、レシピで当初案(Big Plan)で検討していた内容と、アントレプレナーの教科書と出会うことでターゲットの絞り込みを実施した最小セグメント(MVP)の対比を紹介し、そして現在はどのように成長したかをご紹介します。

 

◆ショップ情報

big plan

  • 全米50州のトップチェーンをカバー
  • チェーン店の全店舗をカバー
  • 店舗の全品目をカバー

⇒35000店舗+1500万品目!

MVP

  • 1店舗だけにした
  • ただし最初の10ユーザが同じ店を利用していること
  • プロテイン(つまり肉のこと)が夕食メニューの決定要素!

⇒1店舗+5品目(ただしセール品に限定)

 

現在は。。。

13000店舗+40万品目

 

◆レシピ

big plan

  • 主要なすべての材料をカバー
  • 調理方法、料理方法も掲載
  • 料理の難易度も掲載

⇒10万レシピ!

MVP

  • right recipes(オススメできるレシピ)に限定
  • 1素材ごとに5つレシピ
  • セール品目に連動したレシピを掲載

⇒20レシピでスタート

 

現在は。。。

3万以上のレシピに!

 

Food on the Table“が取ったセグメントの切り方は、サービス提供地域、レシピ、対象品目の3つを完全に最小の単位からサービスをスタートしました。

しかし、同一地域に住む最初の10ユーザにしてみれば、たとえコンテンツが拡大しようが普段利用するスーパーが変わるわけではありませんから1店舗でも35000店舗でも変わりはありません。そして取り扱い対象とした品目は「お肉」を中心とした5品目ですから、一般的なアメリカ家庭の献立としては素材もあらかたカバーしています。レシピも20通りあれば1週間のディナーは少なくとも3週間ぐらい重複なしで組めそうです。

 

このサービスのUXは、ウェブ上で好みやレシピを選んだら自動的にショッピングリストを作成してくれることと、そのリストに従って買い物することで通常の買い物よりもお金をセーブできることですから、こうした絞り込みを行ったとしても、UXが損なわれることはありません

 

そう、ここです!

UXが損なわれることがない、最小セグメントを見出すこと」なのです。

これこそが、その後の拡大を容易にするのです。

ハーバードから他大学へ

ピザ屋からネイルサロンへ

書籍からCD/DVDへ

それぞれの拡大は実にスムーズに展開していきます。

 

最小セグメントで始めた初期サービスでもUXを提供できたということ、そしてそこからの拡大戦略が順調に推移しているという事例を見て頂き、ご自身の戦略においても「思い切ったセグメント戦略立案」を適用する際の参考になればと思います。

 

 

ちなみに”Food on the Table”のビジネスモデルは基本的にフリーミアムです。

有料メニューは毎月$6弱からありますが、このサービスを利用した際にセーブできる金額が平均$40で、月会費を支払ってもペイできるというのが売りのようです。