前回の記事では、リーンスタートアップの実践における「測定」の重要性について、エリック・リースの翻訳記事をお伝えしました。
その流れで「測定」について書いてみたいのですが、今回は「なにを、どう測定するべきか」についてお伝えしようと思います。
スティーブ・ブランクが「アントレプレナーの教科書」のなかで、スタートアップが最初に獲得すべきユーザを「エバンジェリスト・ユーザ」と呼んでいることはすでにご紹介しました。
特定の課題を抱えていることを明確に理解しており、すぐにでもお金を払ってサービスを使いたがっているこのユーザは、サービスに満足すると自らがサービスの宣伝活動を行なってくれるという、スタートアップにとって最も重要な初期ユーザです。
一方、一般的には「アクティブ・ユーザ」という言葉がよく聞かれます。
登録ユーザのなかで、サービスを継続的に利用している(例えばログイン)ユーザをさしているケースが多いようです。
ここでひとつ考えていただきたいのですが、スタートアップがアクティブユーザ数をカウントする理由はなんでしょうか?
PR?
それとも自社サービスの顧客開発状況を把握し、素早くPivotするため?
もし後者が目的であるのなら、いますぐサービスの継続利用に基づくアクティブユーザカウントという考え方はもう一歩、進化させることをお勧めします。
なぜなら、単純なログインユーザ数のカウントでは、ユーザがそのサービスに対して本当に満足しているかどうか?の測定にはならないからです。
例えばソーシャル系サービスを提供していながら、月に1回ログインしたユーザを「アクティブ」と定義しても、サービスの状態を正しく判断する指標には成り得ないことは容易に判断できるかと思います。
ではなにを測定すべきでしょうか。
Dave McClueが提唱する”AARRR”は有名ですが、今日はもう一歩踏み込んだ測定についてご紹介したいと思います。
それはユーザの「幸せ指標」です。
サービスがいまだ進化の過程にあるスタートアップが測定すべきは、どれぐらいのユーザがあなたのサービスを利用して「幸せな状態」にあるか?を測定すべきです。
どのようなサービスにおいても、そのサービスに満足しているユーザであればみな一様に行う「キーアクティビティ」があるはずです。
これは、サービスに満足したユーザが口コミを行うといった行為を指しているのではなく、ユーザ自身がそのサービスを利用している際の行動のなかのことを意味しています。
例えばEvernoteの熱狂的なユーザであれば、単にWeb記事をクリッピングするだけでなく、サービスを最大限に活用すべく、熱心にタグ付をしたり、chromeのエクステンションをインストールしているかもしれません。
Dropboxから離れられなくなっているユーザは、複数の端末や環境から頻繁にアクセスしているかもしれません。
ご自身の提供するサービスの中から、こうしたコアユーザに見られる共通の行動(キーアクティビティ)を特定し、その行動を全ユーザ数のどれぐらいの割合が行なっているかを測定することによって、サービスが本当にユーザから支持されている状態であるのかどうかが判断できるようになります。
いつも紹介している”Running Lean“の中で、Ash Mauryaはこうした測定指標を”Customer Happiness Index”(CHI)、「ユーザの幸せ指標」と呼んでいます。
サービスをローンチさせたら、毎日ユーザの利用状況をこの”CHI”によって測定し、ユーザの幸せ状況をトラッキングしながら、なにを、どう判断し、いつ”Pivot”すべきなのかを判断します。
たとえばサイト訪問者数、登録アカウント数、ログイン数、キーアクティビティの3つを測定し続けた際、以下のような結果が現れたら、あなたはどのように判断し、手を打ちますか?
- サイト訪問者数は急増
- 登録アカウント数は微増
- ログイン数は維持
- キーアクティビティは微減
たとえばこの場合、プロモーションが功を奏して登録アカウント数が増加したにも関わらず、ランディングページのバリュープロポジションが不適切なままでユーザを取り逃がし、さらにキーアクティビティまで誘導するUX設計に問題があるという状況が想像できます。
ということは当然ながら、いまあなたが取り組むべきはさらなるプロモーションではなく、ランディングページの最適化と、キーアクティビティまでをいかにストレスなく誘導するUXを設計するかに集中スべきです。
もしキーアクティビティの測定を行わなかったとしたら、ログイン数が維持されていることを理由に、さらなるプロモーションを打ってしまうような間違いを犯すことにはならなかったでしょうか。
また、こうした定量的な評価は、ユーザをセグメントしながら集計することでより深い評価が可能になります。
たとえばアクセス端末種別ごとに幸せ指標を測定することで端末固有のユーザビリティの違いが見えたり、性別で分けることによってUX設計に反映したりすることができます。
このような指標はどんなサービスにも共通の計算式が存在するわけではなく、サービスの特性やプラットフォームなどを考慮しながらカスタマイズをしていくものです。
重要なのは、どのような測定を行うと実際のユーザの満足度を評価できるようになるかを徹底的に考えることです。
2/6に開催したMeetupでは「イノベーションはどこで生まれるのか」というタイトルでスライドをご紹介したのですが、多くの人は、イノベーションはアイディアの段階で生まれると思っています。
しかし実際には、あるアイディアを実行した結果の分析および分析結果からの「学び」によってイノベーションは生まれるのです。
リーンスタートアップのスピードを加速させ最速で成功に近づいていけるかどうかは、こうした分析力に依存します。
新規ユーザの獲得戦略ももちろん大切ですが、特にサービス初期の段階ではとにかくユーザの幸せ指標を向上させることに注力すると、後のユーザ獲得が非常に容易に進んでいくのです。
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【参考情報】
◆AARRRとは
AARRRとは、ユーザ・アクティビティの頭文字を意味しています。それぞれの意味は、
A:Acquisition(ユーザ初期登録)
A:Activation(アカウント有効化)
R:Retention(サービス再利用)
R:Referal(口コミ)
R:Revenue(売上)
となります。
多くの場合、Acquisition数が最も多く、次の段階へ進むユーザ数が徐々に減少することから、こうした一連の流れを「ファネル(じょうご)」と呼びます。
ユーザ初期登録したユーザ数を100とした場合、アカウント有効化を行うのが80%、再利用するのが30%、口コミをするのが10%、有料メニューを購入するのが5%といったように、一般的には、徐々にその人数は減少します。
一般的には、こうしたパーセンテージが変わらないことを前提として、Acquisitionの数を増やすためのプロモーションに費用を投下するというのが大企業流のやりかたです。しかし、マスへの広告などが望めないスタートアップにとっては、Activationはもちろん、RetentionやReferalを増やすことでRevenueを増加させるというのが一般的です。
しかし、まだサービス仕様が固まりきっていないときにもっとも重要になるのはユーザがサービスをどれぐらい愛しているのかという判断であり、Retentionを中心に、更に深い分析を行う必要があるのです。