Startup Lessons Learned Conferenceからご紹介する2回目のケーススタディは、Votizenというサービスを提供しているDavid Binettiの講演です。
Votizenというサービスは日本ではあまり知られていませんが、ソーシャル・ロビーイング・プラットフォームと呼ばれる、市民と政治家をつなげるソーシャルメディアサービスを提供しています。
スティーブ・ブランク、エリック・リースも出資者に名を連ねるこのスタートアップは今回”When and How to Pivot“というタイトルの講演にて、顧客開発モデルの顧客発見と顧客実証プロセスを実際にどのように実施したかを、実例と共に紹介しています。
仮説の立て方、検証のための指標の設定などのうち、事業の方向転換(以下、Pivot)を「いつ」「どのように」実施すべきかという点についての考え方が非常に参考になります。
“Pivot”を行うための基本的なプロセスは以下の通りです。
- ビジョンの設定
- 仮説の記述
- 最小機能の製品(MVP)の開発
- 設定したメトリクスによる検証
- 効果測定
- “Pivot”の検討および実施
では具体的な手順です。
リーンスタートアップでは、製品の持つ機能と顧客の課題が一致し、マーケットの存在が確認できるまでは仮説と検証を繰り返して”Pivot”を行います。
しかし、方向転換を行き当たりばったりにしないよう、スタートアップが考えるビジョンに基づいて実施します。
※Pivotについては以前のケーススタディも合わせてご覧ください。
例えばVotizenが考えるビジョンとは以下のような内容です。
- Facebookのようなソーシャルメディアでは、市民と政治の架け橋にはなりにくい
- 市民は同じ考えを持つ市民が協同し、政治家と直接的に繋がることを望んでいる
- よって、こうしたコネクションを実現することは、世界をより良くするための貢献になる
続いて仮説の記述ですが、仮説は以下の項目で設定します。
- 製品の特徴
- ユーザの課題
- 提供するチャネル
- 需要の拡大手段
- マーケット種別
- 競合他社の存在
例えばVotizenの最初の仮説の記述はこうなります。
■Ver1.0の仮説
- 課題:人々はより強力な声を求めている
- 製品:政治のためのfacebook
- チャネル:ソーシャル・ネットワーク
- 需要:バイラル
- マーケット:再セグメント(ドネーション・エンジン)
- 競合:分断化されている
次に実施するのは最小限機能のみを持った製品の開発です。
Votizenでは最初の製品は6週間で予算$1206で開発したそうです。
次にこの製品を測定するための指標(メトリクス)を設定します。
Votizenではこのメトリクスの設定に、500 StartupのDave McClureが提唱する「成功への5ステップ」”AARRR“を利用したそうです。
“AARRR”とは、ユーザがサイトを訪問してから売上げに繋がるまでのファネルの頭文字で、意味は以下の通りです。
- Acquisition(サイトへの訪問ユーザ数)
- Activation(最初の訪問時にハッピー体験を提供できるか?)
- Retention(ユーザが再度サイトを訪れるか?)
- Referral(口コミしたくなるほどサイトを気に入るか)
- Revenue(サービスに対して支払いを行うか)
Votizenが設定したメトリクスは以下となります。
- Acquisition:サイト訪問ユーザ数に対するサインアップ率
- Activation:サインアップしたユーザ数に対するアカウント有効化処理率
- Retention:有効アカウントユーザ数の訪問回数(3回以上が目標)
- Referral:有効アカウントユーザ数に対する口コミ率
- Revenue:有効アカウントユーザ数に対する有料サービス利用率
さて、仮説の記述、メトリクスの設定、MVP製品が揃いましたのでいよいよ測定の開始です。
最初の製品による測定の結果、サイト訪問ユーザの5%がサインアップし、そのうち17%がアカウントを有効化しました。
かなり少ないです・・・
そこでA/Bテストを行い、サイトの最適化を実施します。
これによってサインアップユーザは17%、アカウント有効化ユーザは90%まで向上します。
一見すると成功に一歩近づいたように見えますが、肝心の売上げが”0″のままです。
リーンスタートアップでは、まず最初に目指すのはエバンジェリストユーザです。
エバンジェリストユーザとは「いますぐにでもそのサービスに対して支払いをする準備ができているユーザ」です。
ということは、まだVotizenの製品はエバンジェリストユーザの課題を特定しておらず、課題を満足させる機能が提供出来ていないのです。
まさにこのタイミングが”Pivot”を検討するタイミングなのです。
A/Bテストやランディングページの整備などで得られるユーザ数の向上は、現時点での仮説設定におけるアクセスを最大化させることはできますが、残念ながらマーケットの存在を保証するには至っていません。
そこで、設定した仮説を見直し、”Pivot”を実施します。
例えばVotizenでは、最初のPivotにて製品仮説と顧客の課題仮説を見直します。
■2.0版の仮説
- 課題:人々は政治活動への参加はハードルが高いと感じている
- 製品:シンプルなメッセージツール
この後、Votizenでは様々な検証を繰り返し、Ver4.0まで”Pivot”を繰り返します。
詳細はこちらのスライドで御覧ください。
さて、ポイントは「いつ」「どのように」”Pivot”するか?という点です。
この2つに対してDavid Binettiは次のように説明しています。
■いつ”Pivot”すべきか?
- サーベイ、A/Bテスト、ランディングページ最適化などはすでに定義した仮説に対してのアクセス向上には貢献する。
- しかし、すでにアクセス向上が鈍化したり継続可能なビジネスではなさそうだとしたら、仮説を再定義(つまり”Pivot”)すべき時。
■どのように”Pivot”すべきか?
- 製品のことから離れ、問題の本質を振り返る
- そのためには、ホワイトボードの前から一旦離れる
- やみくもに考えるのではなく、学習したことを振り返ってみる
- 学習したことをビジョンに照らし合わせるとインスピレーションが生まれる
新規事業でよくある失敗として、売上げを上げるために、サイトへのアクセス数をやみくもに増やそうとする事があります。
Google AdWordsを購入したり、広告を購入するなどです。
しかし、ユーザがサイトを訪れた時に
「自分の抱えている課題は違う」
「自分の抱えている課題を解決してくれそうにない」
と感じた場合、どれだけアクセス数を増やしても、絶対に売上げに繋がることはありません。
VotizenではVer4.0で仮説の設定を以下のように変更し、
- 製品:シンプルな政治活動参加ツール
- 課題:人々は良き市民でいたいと感じている
結果として
- サインアップ率51%
- アカウント有効化ユーザ92%
- 口コミは64%
- 再利用率:28%
- 有料サービス利用率11%
を達成しています。
リーンスタートアップで大切なのは、このようにビジネスモデルが確認できるまでは「リーン=無駄遣いをしない」を心がけることです。
自分たちが考える課題と製品機能が売上げに繋がることを確認できるまでは、極力早期に検証と学習を行い、継続的な製品開発を繰り返すことです。
大規模な出資を募るのは、繰り返し提供可能で拡張性があるビジネスモデルを見出してからなのです。
今回ご紹介した”Pivot”以外にも様々な検証方法があります。
それぞれのスタートアップが目指すビジネスモデルによって、メトリクスの設定方法も異なります。
また、何度でも繰り返し”Pivot”を行い、本質的な課題と効果的な解決手段を見出すためには、スタートアップ自身のビジョンはとても大切です。
なかなか拡張性のある市場が見いだせないとき、いつでも振り返ることができるビジョンの存在は、スタートアップが原点へ立ち戻るときの最も重要なツールだと言えます。
さて、まだまだStartup Lessons Learned Conferenceからの記事は作成中です。
次回の更新もお楽しみに!