リーンスタートアップの考えに従って事業設計を「開始」することは、ステークホルダーの合意があればすぐにでも始められます。
ですが、それを成功するまで「継続」するとなると、とてもハードルが上がります。実際、多くのチームが仮説検証に取り組んでは、ほんの数ヶ月でアイディア重視に走ったり、プロダクト開発に着手してしまったりします。

 

これはいったいなぜなのでしょうか。

 

何度インタビューを行っても、ニーズを確信するに至らないからですか?
やっぱり、とにかくまずはサービスを作って、グロースハックをガンバってユーザ数を増やしていた方が、成功に近づいているように感じるからですか?

 

わかります!

 

これってつまり、事業開発をするチームには、たとえ仮説が「反証」され続ける状態であったとしても「前へ進んでる実感」が必要だと言うことなのです。
この「評価基準」を適切にセットすることなく仮説検証を始めてしまうと、自分たちのアイディアがまったく受け入れられない状況が数週間も続いただけでモチベーションが低下し始め、まったく前へ進んでいる感じがしなくなります。

 

どうにかして自分たちが前へ進んでいることを実感したいと思う気持ちは、やがてPV、ユーザ登録数、ダウンロード数などという虚栄の評価基準(バニティーメトリクス)を見ることで代替しようとし始め、チームは誤った目標に進み始めて行き、新規事業は失敗へ向かい始めます。

高らかにリーンスタートアップへの取り組みを宣言したチームも、数ヶ月後にはWBSとガントチャートを睨みながらプロダクト開発に着手してしまうのは、こうした理由からです。

 

では、新規事業開発を行うチームには、どのような評価基準を設定してリーンスタートアップに望むべきなのでしょうか。

今回は、2回に分けて「新規事業開発チームが設定すべき評価基準」について説明したいと思います。

 

複数のひとたちがチームを組んで新規事業開発にチャレンジする場合には、基本的に2つの評価基準を用意する必要があります。

  • 1つは事業開発そのものの進み具合、つまり進捗評価基準
  • そしてもうひとつは、メンバーの事業開発への貢献、つまり人事評価基準です

 

事業開発を始めた初期段階においては、ほとんどの仮説が反証されるという失敗の連続をします。そんな状態でも、この2つをいかに適切に評価できるかこそが、チームが失敗を重ねていても「前に進んでいる実感」を持てるかどうかなのです。

 

今日はこのうちの、人事評価基準について解説します。
世界中の企業において様々な人材活用プログラムが生まれ、ザッポスのような文化の育成が賞賛されたりしていますが、世界中に存在しているほとんどすべての人事評価システムの基本構成は、2つの評価軸から構成されています。
それは、

  1. チャレンジを評価するか、堅実を評価するか
  2. 加点方式で評価するか、減点方式で評価するか

という2つの軸です。

図にしてみるとこのような形になります。

 

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書店に行けば人事評価や企業文化の創出に関する書籍が数多く並んでいますが、ほとんどの手法を整理すると、この2つの軸を適切に適用しなさいと言っています。
人事評価はこのように考え方が違うから、何をやって欲しいかによって適切な基準を設定すべき、ということです。
ザッポスの事例は、①を極端にエンハンスした文化と言えます。

 

多くの企業で採用されているのは、すでに軌道に乗っている事業のオペレーションに適した④です。もうすでに事業の成功パターンは確立しているのですから、携わるメンバーは堅実性を求められ、それが出来ないと減点されるという人事評価です。

 

新規事業に適切な人事評価軸は、当然①で、成功しそうなチャレンジをしたひとほど加点式で評価されるべきなのですが、これが実はとても運用が難しいのです。

 

経営者がどれだけ「チャレンジをしろ!」と声を張り上げても、中間管理職が減点評価ばかり繰り返して③の状態を作り出すというのが、もっとも多い失敗パターンです。そうすると、メンバーはこれ以上減点されてはたまらないので、やがてチャレンジはせずに堅実なこと(上司が気に入ること)だけをやって、④の状態へと向かいます。仮説検証で失敗を繰り返していく中で、バニティーメトリクスへ移行していくというのは、この人事評価基準の不適切さがとても大きな問題になるのです。

 

スティーブ・ジョブスは、自分自身が納得できる領域までチャレンジしない人間には「1点」もやらないという、これも極端な①人事評価を行った人物だと言えます。部下が②の領域で点を稼ごうとしても、無理矢理に①というReality distortion field(現実歪曲空間)へ引き戻すという、とてつもない経営を行った結果として、数多くのイノベーションを生み出したのです。

 

日本のメーカーで起こっていることはこの逆パターンです。
多くの企業では、組織全体の経営方針はトップが決めるけど、人事評価は中間管理職に丸投げされているというパターンでこの問題はよく起こります。
年頭の挨拶で社長が「我が社にとって今年はチャレンジの1年になります。諸君も気を引き締めて業務にあたって欲しい!」と言っておきながら、チャレンジに対する加点評価基準を中間管理職に示すことなく叱咤激励を繰り返すというのが典型的な失敗事例で、これはみなさんも良く耳にしているのではないでしょうか(笑)

ひとは褒められるために働いているのですから、働き方が人事評価基準に準拠していくのは当たり前なのです。

 

では、ジョブスのように方針と評価基準を両方実行するひとがいない組織で、チャレンジを加点方式で人事評価するには、どうしたら良いのでしょうか。

 

それは先ほどお話しした、もうひとつの新規事業開発評価基準「事業開発そのものの進み具合」がちゃんと適切に設定されているかどうかがカギになります。
事業そのものがどういう状態になれば「進んでいる」と言えるのかが決まっていれば、たとえレベニューが生まれていない状態であったとしても、人事評価で「加点」することは可能です。

 

次回は、新規事業に取り組むチームは、どのようにしたら「事業開発そのものの進み具合」を適切に設定できるかについて解説したいと思います。