2012年に自分の頭の整理を目的に作成した”Lean Diagram“とそのマニュアルが、昨年後半ぐらいからジワジワとDL数、販売数ともに継続していて、なんで今頃になって?という疑問から、自分でも久しぶりにマニュアルを読み返してみました。

 

LeanDiagram_v1.0

 

自分で言うのも何ですが、3年前に作成したものとしてはなかなか的を得ているなーと思ったので(笑)、今回は”Lean Diagram”を開発したきっかけや、その概要をご紹介しようかと思います。様々あるキャンバスを新規事業開発に利用している方にはぜひ読んで頂きたいです!

2012年当時、様々なキャンバスを書きながらビジネスモデルを設計するという手法が少しずつ広がっていく中、アッシュ・マウリャやブラント・クーパーなどが提唱する「スタートアップが最初に目指すべきマイルストン」である「プロブレム・ソリューション:フィット(課題と解決策が一致している状態)」を、どうやったら判定できるかをずっと考えていました。

単純な概念から考えれば、そこに存在している「課題」が明確に定義され、そしてその課題を解決できる「ソリューション」の2つが一致してる、と「ユーザが判定」してくれれば、プロブレム・ソリューション:フィットは完了したと言える気がします。ユーザが判定した基準としては、アプリのDLであったりユーザ登録やリテンションを見るわけです。

しかし、新しいビジネスモデルを聞く度に「この事業アイディアだとしたら、プロブレム・ソリューション:フィットはどんな状態で判断できるだろう・・・」と考えていたら、単純に課題とソリューションが一致するなどというものは、実際に事業として生き残るには「予選通過」にもならない、と思って来たのです。なぜなら、この両者が一致しているけどビジネスとしては失敗しているアイディアなんてそこら中にあるからです。

例えば、語学学習やプログラミングなどのスキル習得などの、いわゆるEdTechの分野などでは、「英語が習得できない」という課題に対して、「このサービスを本当に継続すれば英語は習得できる」という組合せは成立していながらビジネスに失敗しているサービスは星の数ほどあるわけです。これは「短い時間で有益な情報を求めている」という課題に対して「最も旬な情報をキュレーションして提供する」という組み合わせで価値を提供しているメディア系の新規事業でもそうだし、ありとあらゆるところで同じ状態が起きています。課題とソリューションの一致なんてそれこそ当たり前のことすぎて、そんなものは成功までのマイルストンでも何でもないのです。

そこで、プロブレム・ソリューション:フィットが「事業として成立することが確信に変わるための基準」として判断できるようになるには、どんなことを設計すれば良いのかを明確にしたのが”Lean Diagram“です。書いても成功できるかどうか分からないキャンバスではなく、「これを眺めながらビジネスモデル設計すれば本当に成功が実現へつながる」キャンバスが欲しかったのです。

そこで、成功が確信に変わる条件として設定したのは「その新しいサービスは、既存のどのサービスから、どうやって顧客・ユーザを略奪するのか?」を明確にするということでした。攻めに行くターゲットを明確にし、その中で不満を募らせている顧客・ユーザの移行を「パターン化」してしまえば、同じ属性のユーザをザクザクと獲得できるようになるからです。

古くはYahoo!からGoogleへのユーザの大移動があり、最近ではMS OfficeからGoogleドキュメントに代表されるローカルからクラウドへの移行など、一度パターン化されるとなだれ式にユーザの移動が始まるケースがあります。これを常に「意図的」に起こせるようにするのが”Lean Diagram”の目指すところで、主にアーリーアダプターをどの事業から略奪するかを明確にすることにフォーカスして設計してあります。

一般的なユーザは、普段利用している習慣を気軽に変更することはめったにありません。ガラケーからスマホ、MixiからFacebook、WindowsからMacなど、仮に新しいサービスの方が便利だと分かっていたとしても、ユーザは乗り換えにかかる手間をとても嫌うからです。みなさんも始めてガラケーからスマホに乗り換えたときには、アドレスブックひとつを移し替えるにも大変な手間がかかったことを今でも覚えていると思います。事業設計では、この乗り換えにかかる手間を「スイッチングコスト」と呼びます。新しいサービスが例え無料であったとしても、いままで使っていたサービスとのインタフェースの違いやデータの移行、友人への周知など、移行するための数々の手間はユーザをサービス移動から遠ざけます。一方的に良いサービスを作って「こっちへおいで」と言っても、ユーザはカンタンには乗り換えてくれません。いかにこのスイッチングコストを低減するかというのがとても大切なのです。

このように「特定の事業(企業)からの顧客の略奪」をパターン化するということを、事業設計では「戦略」と呼びます。“Lean Diagram”はまさにビジネスモデル設計と戦略設計をひとつのシートにまとめたものなのです

既存サービスから顧客・ユーザを略奪できないサービスは、例え一部のユーザに支持されていても「リビングデッド」になる可能性は非常に高いと言わざるを得ません。パーソナルコンピュータの世界ではシェアナンバーワンのみが本当の成功を納めたように、新規事業開発とは常に誰かとの戦いであり、正しいターゲットに対して正しい戦略をぶつけてこそ、成功へ近づいていくのです。

覚えておかなければいけないのは、どんなにイノベーティブなアイディアを思いついてもユーザの可処分時間は常に一定であり、良いサービスの登場によって増加することはないということです。可処分時間が増えないなら、ユーザが費やしている時間やお金のどれかを「略奪」するしかありません。かつて多くの人がコンソールゲームに時間とお金を費やしていたのを、惜しみもなくソーシャルゲームが略奪したように、ターゲットを明確にして確実に実現できる手段を次々と投入していくことこそが、新規事業開発と呼ばれる作業の実態なのです。

もしあなたが考えている新規事業に対する明確な略奪ターゲットが存在していないとしたら、その新規事業は「セグウェイ」のように、「イノベーティブだけど事業としては成功しない」ものになる可能性はとても大きいのです。

いま、なんらかのキャンバスを運用しつつなかなか成功に近づけないようでしたら、ぜひ一度”Lean Diagram”を眺めてみてください。何を書き込むべきかに迷ったらマニュアルも用意してありますし、泉森さんが書いてくれたスーパーわかりやすい解説もあります。

あ、ほとんど運用してないですが、Facebookページもありますし、ご希望によりセミナーも開催しようかなと思いますので、ぜひメッセージをお寄せください!